『七日目』


このガキは大事そうに曹達水を抱えては、飽きもせずに兵隊と同じように暗く沈んだ空を眺めている。

確か今日で7回目くらい。毎日来てて飽きないのか、というか暇なのかと思う。

この任務が終わったら、このガキはどうするんだろう。

会うべきではなかったと思う。
残されるのはこのガキの方だ。
初めから冷たくあしらってしまえば良かったのだが、どうしてかそれも出来なかった。

多分気付いてる、理由なら。




「兵隊さん」

いつもの様に、漂った意識はその声で引き戻された。

「………ん?」

兵隊の大分遅れた返事にも慣れてしまったようで、少年は機嫌を悪くする事なく続けた。

「兵隊さんは、いつまで此処にいられるの?」


『いつまで』


一瞬見えた終わりが途方もなく曖昧に、
少年の言葉は容赦なく鮮明に。

「俺も…分かんね」

すぐに答えられなかったのは、とっくに諦めたそれを、今更惜しくなったからかも知れない。

「…そっか。」

少年はそう言って曹達水をまた一口。

その表情は兵隊には見ることが出来ないが、悲しそうな語調ではなかった。
寧ろすっきりとした感じ。


良かった。


内心ほっとして一息ついた。

この良かったと思ってしまったことが、いかに愚かなことだったか気付かなかった。

少年は知らないのだ。兵隊の知る、その終わりを。

いつか来るのは解ってる。

それでも、その『いつか』が来るその日までは、

この少年と―――









その時兵隊の目に映ったのは、どんよりとした空に浮かぶ黒い無機質な飛行物体。