『五日目』


今日も曹達水を片手に、少年は川辺にいた。

「ねぇ、異国の言葉、教えて」

「…何で」

兵隊はあからさまに嫌そうな顔になった。

「何でって、知りたいから」

それにもめげずに少年は食い下がる。

「あー? ……例えば?」

少年が何か聞くと、兵隊はいつも煩わしそうにする。
けれど何だかんだ文句を言ってもちゃんと答えてくれるのだと最近気付いた。
気付いてからはそれがおかしくて、つい口元を緩めてしまう。
兵隊さんは、面白い。

「えっとね、じゃあ川」
「”rever”」
「空」
「”sky”」
「兵隊さん」
「”soldjer”」

兵隊の口から異国の言葉が出てくる度に、少年は不思議な気持ちになって思いつくまま、水、犬、猫、他にも沢山の言葉を聞いた。

「あ、僕は?」
「……お前?」

兵隊は少し驚いた顔をして、困ったように眉を顰める。

「うん、何かないの?」



「…”brother”」



「…へー」

口に出すとからかわれそうなので、忘れないように何度も心の中で繰り返した。

「ガキって意味」
「な、何それっ」

一瞬前の行動を激しく後悔しながら、兵隊を威力の無い目で睨む。

「今の感動返してよー」
「残念だったな」

人事のように兵隊は笑った。
面白いなんて前言撤回。最低だ。
でもはじめ笑ってさえくれなかった兵隊が笑っているのを見てると、

少し、ほんのちょっと嬉しくなった。