『四日目』
「兵隊さんって兵隊っぽくないよね」
「は?」
出会って四日、兵隊は大分少年の言葉に反応してくれるようになった。
「だってもっと恐いのかと思ってた」
「何、ソレは」
相変わらず呆れ顔ではあるけれど。
「大人はみんな兵隊は恐いから近づくなって言うよ。殺されるって。」
そんな事を言ってのけるのはやはり子供だからだろうか。
兵隊以外の兵隊の耳に入ったらどうなる事か。
周りに誰もいる筈ないのに周囲を確認したくなった。
「…俺は大した訓練受けてないから。八つ当たりするようなストレスも無いし。」
仲間であるはずの他の兵隊に対しての兵隊の反応は薄い。まるで仲間だと思っていないようだ。
「…本当に兵隊なの?」
今更ながら少年は兵隊が本物かどうか疑わずにはいられなくなった。
「一応な。…でもこの仕事が一番辛いんだろうな、本当は。」
自分が兵隊らしくないことを自覚しているのか、兵隊は苦笑した。
そして他人事のように辛い、と言う。
「そうなの?」
見えないけど。と付け足すと兵隊はまた少し笑った。それは自嘲にも見えた。
「元々俺の他に五人くらいいたけど、みんないなくなった」
「じゃあ兵隊さんって強いんだ」
意外だと思った。見るからにやる気なさそうだし。
「どうだろうな。…俺には、失くすものとかないから」
今日も空を見上げている兵隊だけれど、この時何故だかもっと遠くを見ている気がした。
「どういう、意味?」
不安になったのはどうしてだろう。
「お前は解んなくていーの。」
「…それムカつく」
突き放されたのとガキ扱いされたのとで腹立つのを通り越して寂しくなった。少年はふい、と顔を逸らして頬を膨らます。
「ガキ」
更に不機嫌になるのを見越しているのかいないのか、兵隊は軽く鼻で笑ってあしらった。
「……ムカついてないもん」
いつも鼻で笑ってただけの兵隊が今度は肩を震わせて笑っていた。
それが可笑しくて少年も我慢できずに噴出す。
和やかな時が流れていく中で、兵隊の意識はもっと遠くにあった。
それは兵隊ですら届かない程遠く。
「ねぇ」
それからどれくらい時間が経ったのか分からないが、少年の一言で兵隊は現実に引き戻された。
「あ?」
「兵隊さんは異国に行ったことある?」
少し暗くなってきてるので小一時間は呆けいていたのだろうか。
「無いけど。…何で?」
軍の中でも異国へ行ったことがあるのはごく僅かだと、兵隊は何処かで聞いたのを思い出した。
「どんなかなぁって、思って」
少年は曹達水の瓶に空を透かしながら、異国の空を想った。
「空、青いかなぁって、思って」
青い空などもう何年も見ていないけれど、異国の空は何色だろうか。
「…さぁな。」
兵隊からは何とも適当な答えが帰ってきたが気にしない。
少年の中ではもう兵隊は兵隊ではなかった。
兵隊の中でももう少年は少年でははかった。
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