どうしてこんな事になってしまったのだろう。
途方もない溜め息は春風に浚われて、
根拠のない切望は五月晴れの空みたく。
【color3】
「…はぁ」
金曜日の昼下がり。
豪勢な二階建ての建物の前、晃一は仕事でもなく学校でもなく、『家』に来ていた。
晃一のアパートとは打って変わって此処は綺麗で広い。
家に戻るのは月に一度、でもそれはどんな客を相手にするより辛い。
それでも晃一は逃げ出せなかった。
捨てるなんてできなかった。
いつかまた戻れる日が来ると、信じていた。
中に入ると人の気配がしない。
まぁ、いても一人だけど。
「父さん」
現在たった一人の住人である父の名を呼びながらリビングのドアを開ける。
入ってすぐの場所にあるテーブルの上には酒の空き瓶や空き缶、煙草の吸い殻、カップ麺、つまみ、衣類その他ものものが散乱していた。
父の姿はない。
「…競馬かな」
晃一は呟くと部屋の掃除を始めた。
洗濯もして乾燥機にかける。
乾くのを待つ間冷蔵庫の中身を確認。
まだ結構食材は残っていた。
溜まったゴミを出すついでに請求書を探してみたが見当たらなかった。
少し安心して家の残金も確認しておく。
晃一は現金で10万円を綺麗に掃除したテーブルに置いた。更にこの後父の通帳に5万円振込にいくつもりだ。
それは合わせて晃一が1ヶ月で稼ぐ量の半分以上。
そうしてる間に洗濯ものが乾いたので畳んで所定の位置に置いておいた。
これで晃一の家での仕事は終わり。
父がいなかったので今日は楽に終わった。
此処に来る度に自分に言い聞かせる事がある。
後少し、
後少しで全部終わるのだと。
気休めだって構わない。
それで歩いてゆけるのなら。
「…よし。」
帰ろう。
帰り道に向き直ると見知った人影が見えた。
「…あれ?」
その人影も此方に気付いて「あ。」と立ち止まる。
「やっぱ椎名だ」
「傷治ったみたいだね」
あの妙な出会いからは既に数日が過ぎていた。
目立っていた顔の傷もほぼ完治した。
「うん、椎名のおかげで。家この近くなのか?」
「すぐそこ。此処は…ホントの家?」
半ば確信に近い疑問符で春樹は聞く。
晃一もそれが分かって少し苦笑いした。
何処まで言えばいいのか分からない。
「…話すとかなり長くなんだけど」
誰かに話してしまいたいような、話してはいけないような。
「そっか。昼はもう済ませた?」
「まだ…だった」
そんな事すっかり忘れていた。
しかし思い出すと急にお腹が空いてくる。
「じゃあ奢るよ。近くにファミレスあるから」
春樹は晃一の返事も聞かずに歩き出す。
一瞬迷ったが、晃一はすぐに春樹の隣に追いついた。
約1年ぶりの更…ごほん。
何度も書き直していたらもう一年も経ってしまったんだと思うと、悲しくなる。
でもやっと本題。
書きたい事は沢山だ。
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