静寂
「……のよ」
なんでこんなに騒がしいのよ。
溜まっていた苛々が最高潮に達して思わず呟いた。
この街は騒がしい。
雑踏に紛れる人々の声、
店から溢れるBGM、
車の走るエンジン音、
此処は音が絶えない。
「はぁ……」
こんな小さなため息も街中の音の一部へと変わって、
やがて空気へと混じって消えてゆく。
騒がしい。
こんな時たまに、
ホントにたまに、
音のない世界へ行きたくなる。
そんな世界寂しいだけだとも思うんだけど。
「どうしたの?さっきから」
まるでこの街の音など聞こえていないかのようにあたしの隣で飄々としているその男は言った。
「別にぃ。」
何となくその態度が気に食わなくてあたしは素っ気無く答えると、彼は困ったような顔をして言う。
「別にぃ、って感じじゃないんだけどなぁ」
「そう?」
「そう」
「…だって何かさ」
ウルサイじゃん、って言おうとして止める。多分コイツはそんなんでもないけど?、って言うから。
「…何かさ、たまに音のない世界に行きたくならない?」
「そぉだねぇ」
彼は聞いてるんだか聞いてないんだか分かんない様な生返事をして少し探るような目であたしを見た。
「あたし、真面目な話してんですけど」
「俺も十分真面目なんだけどなぁ。」
何処が?
目だけでそう訴えてすぐに黙り込む。
そしたら彼はあたしの方を見て、目が合った瞬間微笑んだ。
あ。
あたしは今初めて気付いた。
「結構今も静かじゃない?」
周りで響いている雑音がない。
大袈裟に言えばそれは静寂。
耳に残ってゆくのは彼の声だけ。
「………そーね」
その声は自分にしか聞こえないくらい小さくて街の雑音に消えていったはずなのに、
「でしょ?」
ちゃんと彼の耳に届いていた。
街中雑音は確かにウルサイんだけど、君と二人ならまぁ、